コラム

■第4回 体験談「M&Aの一部始終」  北原慎一郎

 北原電牧(株)には鳥獣害対策部門と自動給餌システム部門の性格の異なる二つの部門があったので、自動給餌システム部門をO社に事業譲渡し、その後、全株式をM社に譲渡した。
 O社は長野県の未上場大手企業だが、自動給餌システムの販売とメインテナンスで長いお付き合いがあり、千歳市にも工場を持っていたので、7名の技術者にはO社の千歳工場に移籍してもらうことにした。
 北原電牧(株)本体はそのまま存続し、本社所在地も、社名も変わらず、社長も当時の常務が昇格した。

 自分には二人の息子がいるが、長男は大学でコンピュータを教えており、次男はプロサッカーチームのスタッフをしていた。
 コンピュータもサッカーも二人にとって小学校時代からの夢だったので、それを捨てて会社を継ぐ可能性はなかった。

 平成22年9月にM&A仲介業者に相談した。その後、顧問会計事務所と打合せしたうえで、仲介契約を締結した。10月にM社の紹介があり、翌月にはM社社長及び役職員が来社され、本社と工場を見学されて、その夜に社長と会食した。
 その間、資料提出が続き、11月には意向表明が出た。思いがけず早い展開だった。
 当初、1年はかかるだろうと考えていたが、なんと一ヵ月で譲渡候補先が決まった。想像以上に速い展開に少々戸惑いもあった。
 意向表明がでてすぐに、常務にM&Aの件を話した。常務は驚いたが理解してくれた。12月には他の二人の役員にも話した。彼らは創業社長時代から40年以上勤めてくれて、北原電牧(株)への思いが非常に強く、大きく動揺した。彼らの本意ではなかったが協力してくれた。
 さらに、株主である親族にも資料に基づいて説明し了解をとった。
 鳥獣害対策部門(本体)の株式譲渡の意向表明が出た時点で長野県のO社社長を訪ね、自動給餌システム部門の譲渡をお願いした。社長は二つ返事で承諾くださり、すぐに千歳工場で棚卸の評価が始まった。
 同時に、自動給餌システム部門の7名の技術者一人ひとりに詳しく事情を説明し、全員から移籍の承諾をもらった。
 12月にはデューデリジェンス(買収監査)があった。M社の監査法人、弁護士、役職員、M&A仲介業者の弁護士、会計士、北原電牧(株)の税理士の先生などで20名近くになった。結果はまったく問題なしであった。すべてが順調に推移し、O社への事業譲渡価格、それを踏まえたM社への株式譲渡価格が決まり、最終的な契約内容も確定した。

 問題は社員への発表だった。M社が上場会社のため、インサイダーの関係で契約日前日2月3日午後3時以降でなくては社員に話せない。
 それで前日午後4時に、経営方針発表会の名目で、全国から社員を本社に集め発表した。社員にとって寝耳に水だった。話を聞いたからと言って契約日前日では変更の可能性は無い。だまし討ちのように感じた社員もいただろう。それが一番辛かった。
 発表のとき、社員は激しく動揺した。吸収合併で会社は無くなってしまうのではないか?譲渡先から役員や社員が大量投入されるのではないか?もちろん、承継型M&Aは、救済型M&Aと異なり、経営が上手くいっているから成立したのであり独立性が保たれる。
 雇用や待遇も大きな不安要素だ。再雇用制度がそのまま維持されるのか、M社本社所在地の福井県への転勤はないのか…。
 一週間位するとそれらも徐々に払拭されていった。
 さらには、子会社になる屈辱感、独立した北海道企業としての誇りが傷つき、絶好調なのになぜかという疑問や、会社の文化が変わるのではないかといった不安もあっただろう。
 しかし、やがて、社員全員が新しい体制を受け入れ、後継社長の下に力をあわせて頑張ってくれた。

 4月1日にO社に事業譲渡、4月2日にM社に株式譲渡を実施し社長から退任した。4月から2か月間は非常勤顧問だった。5月末に送別会を開いてくれて、全員がスピーチしてくれた。言いたいことは山ほどあっただろうが、40年間で楽しかったことばかりを話してくれた。これですべてが終わった。

 この間、すごいストレスだった。肉体的にも精神的にも疲労困憊していた。何度も自分の決断に対する不安がよぎった。しかし、これしかないと信じ自分を奮い立たせた。

 自分の代の北原電牧(株)の売上高は最高20億円だったが、昨年は30億円を超えている。そんな業績を上げられたのは、後継社長の力量、社員の努力、社員の後継社長への信頼、職場の一体感、会社への帰属意識などメンタルな側面だった。






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