空き家対策コラム
なぜ、空き家が「問題」なのか?
北海道大学大学院工学研究院・教授  森  傑


1.はじめに
 空家等対策の推進に関する特別措置法が平成27年5月26日より完全施行され、北海道における空き家問題への関心も高まっている。戦後の住宅不足解消を経て、住宅政策のフローからストックへの転換がうたわれて久しいが、特に近年では、人口減少を背景とした空き家・空き地の増加がより注目されるようになった。同措置法は、適切に管理されていない老朽化した建物(特定空家等)による倒壊や火災、犯罪などの近隣や地域へ悪影響を迅速かつ効率的に解決する地方自治体の取り組みを後押しするだけでなく、固定資産税の増加や解体費の補助制度導入により空き家・空き地の不動産流通を活性化させる効果も見込まれている。それらの背景のもと、平成28年2月に北海道大学と日本建築学会北海道支部の共催による公開研究会「空き家時代の中古住宅の価値発掘と活用戦略」が開催された注)。本稿では、公開研究会で特に関心が集まったトピックをもとに空き家問題の論点をいくつか示したい。
 
2.DIY賃貸
 入居者にとって原状回復義務がないことはもちろん、貸し主にとっても築年数が経った古い物件のリフォーム費用の負担を軽減できる利点がある。また、DIY賃貸により近年の多様化あるいは特殊化するニーズにも対応しやすく、入居者自らの手でカスタマイズすることで住まいへの愛着が増し、入居期間も長くなることで注目されている。確かに空き家の有効活用といえるが、現実にはいくつもの課題がある。まず、DIY賃貸化できる物件の掘り起こしである。未経験の家主自らがDIY賃貸へ乗り出すことは難しい。DIY賃貸のノウハウはほとんど浸透していない。そこで、DIY賃貸を仕掛けるプロデューサー的な事業者が必要となるわけだが、潜在的物件の掘り起こし自体で収益を上げることは難しく、不動産業あるいは建設業の傍らローカルな人脈と縁の中で展開しているのが実状である。また、首都圏に比べ札幌の家賃は低廉であるにも関わらず、改修費(工事費)はさほど変わらない。つまり、DIY補助の費用対効果が出にくい。地方に共通する民間賃貸住宅経営の大きな課題である。
 
3.民泊
 外国人観光客の増加やオリンピック・パラリンピックへ向けての環境整備など、民泊への関心やニーズは高く、また実際の利用者も急増している。民泊は、利用者からすれば何よりも安価で選択肢が多いこと、貸し主からすると容易に収入が得られることがメリットである。札幌への外国人観光客も増えてきており、需要の調整弁として民泊が機能している面もある。民泊を取り巻く問題としてはやはり、非課税取引が指摘される。消費税は非事業者個人に非課税であるが、非事業者の判断にグレーな点がある。また、ビジネスとして空き家を意図的につくって貸し付けている事例もある。不動産流通の観点からいえば、事業者ビジネスと非事業者ビジネスが混在している状況といえよう。これは、民泊として実際どれほどの市場となっているのかが不明瞭なだけでなく、民泊として利用されている空き家は賃貸契約の流通に乗らないため、住居としての実質的な空き状況が正確に把握できないことになる。つまり、空き家活用の施策事業を考える上で、その前提となる統計上の空き家情報が実際を反映していないという事態を生んでいる。
 
4.コミュニティ
 DIY賃貸のメリットとして、入居者同士あるいは近隣住民との交流機会が得られることも注目されている。集合住宅の入居者同士の繋がり、賃貸住宅入居者と近隣住民とのコミュニケーションは、地域の安全性や安心感を高める効果が期待できる。その一方で、地域との間での問題も少なくない。DIY賃貸の導入で家賃上昇による収益改善が図られるが、同時にそれは近隣家賃との格差を生む。DIY賃貸ではない物件の家賃上昇の可能性も否定できない。築年数を経た低家賃の物件は、民間賃貸における住宅のセーフティネットとしての需要もある。不自然・不合理な家賃上昇や競争は安定した居住環境の確保の視点からは望ましくない。民泊においては、例えば外国人オーナーの不在が指摘される。宿泊者へ利用物件のルールが十分に説明されていないケースも多く、ゴミ放置などのトラブルも目立ちはじめている。また、マンション等で不特定多数が民泊を利用する状況に対する所有者や入居者の不安は大きく、独自に民泊を禁止する規約を設ける管理組合も増えつつある。
 
5.住まいの社会性
 札幌市では、特定空家等の除却補助制度を設けている1)。「通常型」と「地域連携型」があり、後者は「除却後の土地を、5年間、地域の自治組織(町内会など)に無償で貸与すること」「地域の自治組織が除却後の土地の維持管理をしながら活用することについて同意すること」が条件であり、通常型よりも補助率・限度額が高く設定されている。平成27年度の補助事業の実施実績は通常型13件であった。実は、その内1件は仮申請時には地域連携型を優先希望していたが、町内会側が地域連携型に合意しなかったため通常型となった。理由は、既に近隣での空き家をコミュニティ活動に利用していること、町内会が新たな土地を活用するには組織的な負担が大きいことが挙げられた。
 筆者らは、30年後の北海道の住まいのあり方を展望する書籍を出している2)。空き家の用途転用や、合築、減築などの建築的な手法を活用しながら、未来の住文化の涵養へ向けて、住まいの社会性を育んでいくことの重要性を強調している。人口減少に直面したドイツの小さな地方都市ライネフェルデは、住棟の間引きや減築などの手法を駆使し、まちの縮小に合わせた団地再生に取り組んだ事例で非常に示唆に富む3)。札幌市そして道内自治体でも空き家・空き地の有効活用を図ろうとする有意義な仕組みが整えられつつあるが、市民や地域の前向きな関心や意識が高まるような運用上のさらなる工夫が期待される。
 

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■注釈
注)平成28年2月6日、北海道大学建築計画学研究室と日本建築学会北海道支部建築計画専門委員会および同北方系住宅専門委員会の共催により、北海道大学学術交流会館を会場に、公開研究会「空き家時代の中古住宅の価値発掘と活用戦略」が開催された。札幌市の空き家対策の概要と検討経緯(森傑/北海道大学,札幌市空き家対策検討委員会委員長)、BASE projectの試みとDIY賃貸(齋藤優/創作工房)、まちづくり資源としての中古住宅の可能性(石塚雅明/石塚計画デザイン事務所)、不動産マーケットからみた中古住宅の今と見通し(志田真郷/インフォメーション・システム・キャビン)の話題提供があった。討論では、住宅の改修や用途転用、地域のまちづくりや景観、不動産マーケットと住宅産業をキーワードとして、未開拓なポテンシャルや新たな付加価値の可能性などの様々なアイデアについての意見交換が行われた。

 
■参考文献
1)札幌市の空き家対策について:http://www.city.sapporo.jp/toshi/k-shido/akiya-tekiseikannri.html
2)30年後の住まいを考える会:みんなで30年後を考えよう 北海道の生活と住まい,中西出版,2014.12
3)W.キール,G.ツビッケルト:ライネフェルデの奇跡 まちと団地はいかによみがえったか,水曜社,2009.9